大人のうつ病
メンタルサポートニュース
まずは気持ちが落ち込み、外に出れずに寝てばかりなどのイメージが浮かぶでしょう。こころや身体の疲労が蓄積して、数日の休息をとっても回復できないことが多いとされております。これといった対象のない漠然とした不安や緊張、イライラなどからどうしても落ち着かず、「同じ場所にじっとしていられない」と話される方々と数多く出会います。
実は、下記のような身体症状が先行してあらわれることがございます。
不眠(あるいは過眠)、食欲不振(吐き気、あるいは過食)、体重減少、倦怠感、めまい、耳鳴り、胸部圧迫感(動悸も含む)、口渇感(のどの渇き・異物感)、頭痛(頭重感)、腹痛、腰痛、首や肩のこり、腹痛、腰痛、背部痛、便通異常(便秘・下痢あるいは、その交代)、手足のしびれ、長引く微熱や風邪症状。
などの症状が、2週間以上続くようでしたら、身体科を受診した後、精神科・心療内科へ一度ご相談ください。
なお、人口の約13人に1人以上が、うつ病に罹患するというデータがございます。
早期発見・早期治療が早期回復の近道です。
うつ病(仮性認知症)と認知症の鑑別
仮性認知症 | 認知症 | |
認知機能障害に対する認識 | ||
自覚 | ある | 少ない |
深刻さ | ある | 少ない |
姿勢(構え) | 誇張的 | 無関心 |
反応速度 | 緩徐 | 障害されない |
質問に対する態度 | ときに努力放棄(「わからない」と答える) | 取り繕い |
見当識 | 保たれている、または一定しない | 障害されていることが多い |
記憶機能 | 障害されない、または短期記憶・長期記憶が同等に障害 | 病初期より遅延再生が障害 |
再認 | 障害されない | 障害される |
描画・構成 | 不注意、貧弱、不完全 | 本質的に障害される |
失語・失行・失認 | ない | 進行するとみられる |
精神科臨床 Legato メディカルレビュー社 2015.7 より
抗うつ薬減量の手順
抗うつ薬減量の手順:減量時に考慮すべきこと
以下のような中止後症状が出現するリスク要因が多ければより慎重に減量を行っていく
・半減期の短い薬物を服用している場合
・抗コリン作用のある薬物を服用している場合
・処方通りに服用していなかったが急に中止する場合
・8週以上継続している場合
・薬物開始時に不安症状が発現した場合
・降圧薬、抗ヒスタミン薬、抗精神病薬など中枢性薬物を併用している場合
・若年例(子どもや青年)
・中止後症状を過去に経験している場合
渡邊 衡一郎.抗うつ薬・抗不安薬使用における多剤併用の問題点およびその整理の仕方 精神神経学雑誌,1
うつ病と関係しているかもしれない薬物
いくつかの物質(処方薬や娯楽のためのドラッグ)は気分を下げてうつ症状を引き起こします。そのようなものには以下のものが含まれます。
- アルコール
- 抗てんかん薬(例:カルバマゼピン、ガバペンチン、トピラマート)(訳注:カルバマゼピン、ガバペンチンよりもむしろ、フェノバルビタール、ゾニサミドの方が抑うつと関係していると思われる)
- ベンゾジアゼピン系(例:アルプラゾラム、ジアゼパム、ロラゼパム、トリアゾラムなど)
- βブロッカー(例:メトプロロール、アテノロール、ラベタロール)
- コカイン
- ステロイド(例:プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン)
- エストロゲン(プレマリン、経口避妊薬)
- オピオイド(例:メペリジン、プロポキシフェン、モルヒネ、ヘロイン)
- 抗パーキンソン病治療薬(例:レボドパ、カルビドパ)
- HMG-CoA還元阻害薬(例:アトルバスタチン、ロスバスタチン、シンバスタチン)
- 中枢刺激薬(例:メチルフェニデート、モダフィニル、メタンフェタミン)
もしあなたがこのような薬剤を使用していて気分が減退しているときには、主治医の先生にその薬の気分への影響の可能性を尋ねてみてください。
Lorna Myers.心因性非てんかん性発作へのアプローチ.医学書院.2015.108
18,133-137.
糖尿病とうつ病の関係
糖尿病患者におけるうつ病発症リスクの増加は、メカニズムを説明できるほど明確ではない。
うつ病患者における糖尿病発症リスク増加のメカニズムは、研究が進んできている
社会・行動面の危険因子の関与 |
●身体活動の減少 |
●社会支援(家族・医療者からの支援)の欠乏 |
●糖尿病治療へのアドヒアランス低下 |
神経・内分泌代謝異常 |
●HPA系の活性化 |
●インスリン抵抗性(感受性の低下) |
●炎症性サイトカインの増加 |
●カテコールアミン分泌 |
三木治.心身医学的アプローチで治療意欲を引き出す メディカルトリビューン,Vol.48,No.29,9.
不眠はほとんどの精神障害で生じる
逆に不眠を訴える者の4割がなんらかの精神疾患の基準を満たすなど両者の関わりは深い。特に睡眠障害の合併頻度が高い。
○うつ病 単純ではなく睡眠薬のみでは効果が得にくい
従来、気分障害における不眠はその部分症状と捉えられ、主症状の消退とともに改善していくものと考えられていた。しかし実際には不眠は残遺症状として多くに残り、再発のリスクファクターになる。このことから米国精神医学会(APA)の診断分類(改訂第5版)のDSM-5では、うつ病に伴う不眠はうつ病とは独立した併存症であり、治療の際はその双方を標的にすべきである、と指摘している。
○認知症 不眠有病率高くまず非薬物的アプローチ
病理背景の一つにはホルモン類の低下がある。メラトニンは生物時計の指令を受けて夜のみに分泌され、各臓器に「夜」を知らせる伝達物質だが、AD患者では病初期よりメラトニン受容体数が低下する。一方、オレキシンは覚醒・睡眠制御に重要な役割を果たすペプチドで、ADの死後脳研究でオレキシン産生神経細胞数の低下が報告されている。これらの変化はAD患者に多い睡眠覚醒リズムの不規則性や日中の過眠、昼夜逆転などの要因と考えられる。
認知症では神経変性的な変化や種々の神経伝達物質の減少があるために、向精神薬の安易な使用は呼吸抑制や転倒、骨折、せん妄につながりやすく、認知症状そのものの悪化のリスクも高い。よって、まずは非薬物的なアプローチから試みることが原則である。ケースごとに不眠背景を慎重に見定め、身体的合併症の治療、現在処方されている服用薬物の影響とその必要性の見直しなど、その誘因を除去する作業が不可欠である。そして生活状況、寝室環境、睡眠スケジュール、就寝前の飲酒や煙草などの情報を聴取し、その中から治療および変更・是正が可能なものがないかを検討する。睡眠薬の使用は他の治療介入が無効な場合に限り、処方するとしてもできるだけ短時間に限定する。
小鳥居 望. 不眠患者の4割に併存 うつ病・認知症で高率 メディカル朝日,531号,24-25.
新型うつ病と定型うつ病の比較
項目 | 新型うつ病 | 定型うつ病 |
病前性格 | ・自分への愛着(自己愛)が強い ・秩序や規範に対してストレスを感じる ・好きな仕事に対しては熱心 ・漠然とした万能感を抱くことがある ・集団との一体化へ消極的 ・真面目で負けず嫌い ・自己顕示欲が強い |
・社会的役割や他者への愛着が強い ・秩序や規範に対し好意的に考える ・基本的に仕事熱心 ・無価値感や罪悪感を抱くことがある ・集団との一体感を重んじる ・真面目で几帳面 ・目立つことを嫌う |
発症年齢 | 10代後半から30代が多い | 20代と中年期が多い |
割合 | うつ病患者の3割前後 | うつ病患者の7割前後 |
食欲 | 過食。甘いものへの執着 | 不振。過食になることは稀。 |
睡眠 | 過眠 | 不眠 |
疲労 | 身体的重圧感、疲労感がある | 気分が減退し、疲労感がある |
いらだちの矛先 | 他人を責める(他罰的) | 自分のせいにする(自罰的) |
気分の浮き沈み | 浮き沈みが激しい | 継続して沈む |
つらい時間帯 | 夕方 | 午前中 |
悪化する場所 | 学校や会社など | 場所は関係なくつねに憂鬱 |
自殺 | 衝動的な自殺が多い | 完遂しかねない計画的な自殺が多い |
気分転換のすすめ | 旅行などをすすめても良い | レジャーなどはすすめずに静養させる |
気分反応性 | 好ましいことや、関心があるものには気分が良くなる | 喜びの感情が減退、何に対しても無気力、興味が低下 |
休日の気分 | 平日、休日を問わず、趣味や好きなことをしているときだけは良好。 | 平日、休日を問わず、つねに沈んでいる |
うつ病の受け入れ方 | 診断を受け入れやすい。自分がうつ病であることを公言する人も多い | 初期ではなかなか診断を受け入れようとしない |
一部のメディアが 報じている見解 |
仕事中だけうつ、それ以外は元気 | つねに落ち込んでいる |
共通点 | ・朝になると出社拒否、登校拒否をする ・傷つきやすい、繊細、理屈っぽい ・考えすぎて行動ができない、決断できない ・他人からの目、社会からの目を極端に気にする ・本人は見た目以上(周りの人が思っている以上)につらい |
(注)この表はわかりやすく比較するため、それぞれの特徴を簡略化したものであり、実際の症状にこれらの比較が当てはまらない場合もあります。
英米の治療ガイドラインにみるうつ病軽症例に対する第一推奨治療
TMAP 米国 テキサス | ・エビデンスに基づいた精神療法が単独あるいは薬物療法と併用で考慮されるべき ・更に毎日の運動,適切な栄養摂取,w-3脂肪酸,女性での葉酸も検討されるべき ・重症度で分けていないが薬物ならばSSRI,ブプロオン,ミルタザピン,SNRI |
2008 NICE 英国 2007 | ・薬物療法は初めの治療にリスクベネフィット比が低いため推奨しない ・患者が介入を希望しない場合,注意深く様子観察し,待つ ・運動やうつ病についてのパンフレットを渡して指導 ・うつに焦点を当てた問題解決技法・簡単な認知行動療法・カウンセリング ・長期の認知行動療法や対人関係療法は推奨されない |
TMAP;Texas Medication Algorithm Project(米国テキサス薬物療法アルゴリズムプロジェクト)
NICE;National Institute for Health and Clinical Excellence(英国国立医療技術評価機構)
うつ病から回復した当事者自らが実践し、重要と考えられた12のストラテジー
ストラテジー | 平均(SD) |
|
4.50(0.65) 4.40(0.64) 4.15(2.53) 4.05(0.05) 4.00(1.80) 4.00(1.50) 3.95(1.45) 3.95(1.45) 3.90(1.09) 3.80(1.86) 3.70(1.01) 3.60(1.44) |
渡邊 衡一郎.うつ病の当事者に対するレジリエンスを意識したアプローチの重要性 ストレス科学,VOL.30 NO.3,26-35.
治療方法
もっとも大切なことは、「こころと身体を休めること」です。しかしながら、「休むこと」の罪責感などから、たやすく受け入れ難い方が多いのが現状です。その際には、ご本人をとりまく様々な状況や環境も含め、是非ともご相談ください。
また、治療のもう一つの柱となる「抗うつ薬」ですが、現在では改良を重ねられて、副作用の少ない薬が相当増えてきております。
実は、寛解状態(これまでの、いつもの状態)になるまできちんと治療をすることが、何よりも大切です。
寛解状態になるまでに治療を中断すると、再発・再燃の可能性が高くなります。
一度再燃・再燃すると、寛解状態にいたるまでには、残念ながら最初の治療期間より長い時間を要します。
「ここまで、よくなったから、治療はいいか」と自己判断される前に、気軽にご相談ください。
アメリカ精神医学会(APA)のうつ病ガイドラインでは、初回のうつ病の患者に対しては、寛解状態が得られた後に、抗うつ薬を減量することなく、最低4ー9ヶ月間のみ続けることが再燃防止のため推奨されております。
また、大切なポイントとして、
症状の改善傾向と日常生活能力(仕事など)は比例しません。
寛解状態になって、晴れて前記能力が、ぐんぐんと回復をみせます。それまでの間に焦らないことが肝要です。
そのため、「そこそこよくなったから」と、復職などの準備をはじめると、うまく進まないのは、当然の結果と言え、その見直しが昨今、とりわけ大きな課題となっております。
これまでのいつもの自分に戻った状態と比べると、再発率は6倍高まります。
他、漢方薬、認知行動療法や対人関係療法などにより、ご本人の不安や悩みごとに応じます。
寛解後、約半年間は再発しやすいので、この期間も抗うつ療法を続けることを推奨します。
過去に何度も再発している方の場合には、2-3年に及ぶ抗うつ療法が必要とされています。
近年EPAとDHAの積極的な補充療法の効果が明らかになってきております。
うつ病においては寛解期あるいは回復期に入ると、不活発な生活の防止と生活リズムを整える目的で、主治医から軽い運動を勧められる人が多い。
運動の種類はストレッチングやヨガのような低強度の運動、太極拳、ウォーキング・ジョギング、ウエイトトレーニングのような中から高強度の運動等、さまざまな報告がある。運動の頻度についても、日本うつ病学会治療ガイドラインにおいては、週3回以上の運動が望ましいと推奨しているものの、一過性の運動でも効果ありとの報告もある。
日本スポーツ精神医学会 スポーツ精神医学 2015 Vol.12 より引用
身体運動による肉体疲労は、睡眠周期初期の徐波睡眠を増加させ、睡眠の質を高めるといわれています。
うつ状態が遷延化している場合、日中の活動量が少なすぎるが故、結果として睡眠の質が損なっていることが多いようです。
注意すべきは、自宅療養による運動不足は基礎体力の低下により、倦怠感、易疲労を強めることになります。
とりわけ、休職期間中の方々においては、体力低下を防ぐための意識的な努力が必要となります。
うつ病治療には、薬物療法の他に、認知療法・認知行動療法(CBT)があります。CBTとは、人間の気分や行動は認知のあり方(ものの考え方や受け取り方)の影響を受けるため、CBTは認知の偏りを修正し、問題解決を手助けすることによって精神疾患を治療することを目的とした構造化された精神療法のことを言います。
薬物治療抵抗性うつ病患者に、通常治療と通常治療にCBTを併用した場合とで治療をすすめたところ、併用した場合の方がうつ症状の改善度が優れ、終了から1年後も持続していたとの研究があります。その結果からも、治療効果の増強や減薬も可能になってくることがわかります。
当クリニックでは、短時間CBTのエッセンスを用いて、精神療法的な関わりを取り入れることもご紹介可能です。CBTを取り入れることで、必要最小限の投薬で治療を行える可能性があり実施しております。
認知療法・認知行動療法(CBT)
人間の気分や行動は認知のあり方(ものの考え方や受け取り方)の影響を受ける。CBTは認知の偏りを修正し、問題解決を手助けすることによって精神疾患を治療することを目的とした構造化された精神療法を指す。
CBTでは「自動思考」と呼ばれる様々な状況下で自動的にわき起こってくる思考やイメージに焦点を当てて治療を進める。治療は対面式の面接が中心で、1回の面接は30分以上。原則として16~20回行う。
治療の流れは
- 患者を1人の人間として理解し、患者が直面している問題点を洗い出して治療方針を立てる
- 自動思考に焦点を当て認知の歪みを修正する
- より心の奥底にあるスキーマに焦点を当てる
- 治療終結
となります。
「うつ病の認知療法・認知行動療法 治療者用マニュアル」(厚生労働科学研究班「精神療法の実施方法と有効性に関する研究」作成)より
短時間CBTではなく、認知療法・認知行動療法(CBT)をご希望される方は、保険診療のカウンセリングとなります。ご予約をおとり下さい。
行動活性化療法
行動活性化療法は、学習理論に基づいた、うつ病への認知行動的アプローチであり、内側(たとえば考え方や気分) から外側(たとえば行動)を変えることが重視されております。
簡単に説明すると、一時的にネガティブな気分から抜け出せない悪循環に陥っている際に代わりとなる、
少しでも疲れすぎない、気分が晴れる行動のレパートリーを増やしていくことにより、ポジティブな感情が生まれることに気づいてもらい、その行動を繰り返し行うことが、この治療の最大の特徴といえます。
尚、行動活性化療法は、うつ病に特化した治療法ではなく、過度に心配する不安症、複雑性悲嘆、大学生の閾値下うつに対しても適応され、その有効性が明らかにされております。
回復の過程における注意点
日々の日常生活の中で、どなたでも、大なり小なりあることですが、気分やそれと表裏をなす身体の具合「調子の波 」に一喜一憂しないことが、とりわけ大切です。
少なからず、その振幅の巾は大きいものでしょうが、何よりも焦らず治療に専念することが、回復のカギとなります。
皆さんは一直線に回復されるイメージを抱いておられるでしょうが、「調子の波」を経験しつつ右肩上がりで、らせんを描くように上がったり下がったりしながら確実に回復される場合が多いようです。
些細なことと感じても、遠慮せずに、ご相談ください。