不眠症
メンタルサポートニュース
眠れない、夜中に何度も目が覚める、熟睡できずに朝がスッキリしないといったことが2週間から1ヶ月以上続いている状態です。
大別すると、2つになります。
- 寝る前に、「仕事や今後のこと」などを色々考えてしまい、堂々巡りの末、朝方まで寝れない。
- 「今日は眠れるかなー」と心配して、寝つきはいいけど、途中で目覚めてしまい、それから眠れないのは「何でかなー」と考えだして、何度も目覚がさめて、結局寝れない。
次第に、集中力や判断力、不安・緊張、倦怠感、日中の眠気など、日常生活における質の低下をもたらしていきます。
是非とも、早めのご相談や受診をおすすめします。
生活習慣の改善・指導に加え、その背後にある原因も可能な限りご相談の上、状況によっては各種検査を実施して、つきとめていきます。
なお、寝酒は睡眠覚醒リズムを乱し、うつ状態などをもたらしますので、何卒ご注意ください。
高齢者の不眠の特徴と対策
- 必要な睡眠時間には大きな個人差がある(8時間睡眠を目指さない)
- 若いころより睡眠は浅くなり睡眠時間は大幅に短くなる(若干の中途覚醒は受け入れる、深追いしない)
- 就床時刻が早過ぎ、床上時間も長過ぎる(若干の遅寝と早起きが効果的)
- 「不眠あり=不眠症」ではない(うつ病、レストレスレッグス症候群などの鑑別)
- 睡眠薬を服用後も症状が残っているケースが多い(治療開始後も丁寧な薬物調整)
- 認知症の不眠には薬物療法は効果が乏しい(処方する場合は短期勝負、生活リズムを改善する)
(保健医療科学 2015;64:27-32)
三島和夫.「高齢者の不眠にBZ系睡眠薬」の前に メディカルトリビューン,Vol.49,No.11,14.
各睡眠薬の特徴
↓テーブルを左にスクロールできます。
ベンゾジアゼピン 受容体刺激薬〈BZ〉 |
メラトニン受容体 刺激薬〈MT〉 (ラメルテオン) |
オレキシン受容体 拮抗薬〈OR〉 (スボレキサント) |
|
催眠作用 | 強い | 弱い | 中程度 |
抗不安作用 | 弱い~強い | なし | なし |
即効性 | 早い | 遅い | 早い |
体内時計 調整作用 |
なし | あり | なし |
効果持続時間 | さまざま | 短い | 中程度 |
副作用 | 多い | 非常に少ない | 少ない |
安全性 | 低い | 非常に高い | 高い |
睡眠構築の変化 | 浅睡眠、呼吸機能低下、REM睡眠の減少など | なし | ほとんどなし |
好適症例 | ・不安緊張が高く神経質タイプ ・非高齢者 ・たまにしか使わないタイプ |
・昼夜リズムが保てないタイプ ・高齢者 ・併用薬が多いタイプ |
・中途覚醒が多いタイプ ・高齢者 ・依存性が高いタイプ |
和田大和.睡眠薬の特徴 オレキシン受容体拮抗薬登場で選択肢が広がる メディカル朝日,531,16.
「眠気」や「過眠」の原因
- 睡眠(量)の問題
― 睡眠不足 - 睡眠の質の問題
― 夜中の何らかの微小覚醒を生じる現象があるために深く眠れない状態
例:閉塞性睡眠時無呼吸症候群 - 覚醒維持機構の問題(中枢性過眠症)
― 例:ナルコレプシーなど - 精神科的疾患や問題が基盤にある場合
― 例:うつ病、現実逃避 - 薬剤による場合
― 例:向精神薬、抗ヒスタミン剤など - サーカディアンリズムによる問題
― 交代制勤務、時差ぼけなど
谷口 充孝(2016).睡眠の話 にっせいしん,2016.3 NO.8,2-5.
- 就寝1時間前には、パソコンや携帯電話の電源をオフにする
- 入浴は睡眠の1時間以上前に。副交感神経が優位になる37~39℃の温度で、20分の半身浴(みぞおちから下を湯ぶねにつける入浴法)をする
- 心地よい音楽を流す
- 寝具や寝室に快適な工夫をする
- アロマ療法を試す
- 15分程度の昼寝を活用する
などがあげられます。
日比野佐和子 (2014). 北枕にして1.5の倍数の睡眠時間にすると最高の眠りにつくことができる 千葉真美(監修)
どんな不眠も治る安眠ガイド マキノ出版 pp.148-154.
広汎性発達障害における睡眠の問題
臨床でよくみられる睡眠の問題
不眠
- 多くのPDD児における睡眠の問題が、“不眠(insomnia)”の範疇に入り、とりわけ睡眠潜時の延長、すなわち入眠困難が特徴的です。
- 睡眠持続の障害(頻回の中途覚醒)も養育者の訴えとしては多いです。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)
- 小児の2%が罹患するといわれているOSASの合併を見逃さないことは、発達障害診療において非常に重要であり、睡眠時のいびき、あえぎ、呼吸停止の有無は重要です。
レストレス・レッグズ症候群(RLS)
- RLSは、欧米では不眠の原因として重要な疾患であることが知られているが、日本ではまだまだ認知されていません。
睡眠の問題が発達障害の症状に与える影響
多動、衝動性
- 多動やADHDは、子どものOSASの症状であることは上述したが、逆に、PDD児において、多動やADHD、反抗挑戦性障害の存在は、睡眠の問題と関連するとされています。
自閉症との関連
- 夜間の睡眠時間、睡眠呼吸障害やパラソムニアの有無は自閉症症状の重症度と関連し、夜間の睡眠時間が短いと、社会的スキルの障害が強く、睡眠呼吸障害が併存すると社会的相互作用がより強く障害されているといいます。睡眠環境や夜驚の存在と、コミュニケ―ションの障害が相関するという報告もあります。
家族機能に与える影響
- 定型発達児において、“悪い”睡眠は、母親の睡眠の質も低下させ、多大なストレスを与えます。同様に、PDD児においても、睡眠の質の低下は、家族の睡眠の質をも低下させ、家族の健康に影響を与えると報告されています。
睡眠の問題に対する介入、治療法
睡眠習慣の確立
- 乳幼児期からの正しい睡眠衛生の励行がきわめて重要です。
- 決まった時間に早寝早起き、睡眠前のルーチンの確立(たとえば、入浴→寝着への着替え→歯磨き→排泄→入床など)
- 寝室の環境調整(明るすぎず、暗すぎず、暑すぎず、寒すぎず)
- 就床前のテレビ/ビデオ視聴・ゲーム・インターネットの制限
- カフェインなどの刺激物の制限
- 夜間の外出禁止、など
- 発達障害児の特徴であるこだわりを就床前ルーチンに生かすことにより、適切な睡眠習慣の確立につなげることは合理的であると考えられております。
- ルーチンが確立しにくい子どもには、絵カードなどによるルーチンの視覚的な提示やトークンエコノミーシステムなどを用いた行動療法的アプローチの併用が望ましいと考えられます。
- 高機能の年長児には睡眠の重要性を理解させることも肝要でしょう。
睡眠衛生改善に抵抗する不眠、概日リズム睡眠障害
- 昼夜逆転しているなどリズムが崩れている子どもでは、生体時計の地球時間への同調を強化することを目的として、午前中の一定の時間に陽光を浴び、日没以降は明光に露出させないように、生活習慣を改善させるべきだといわれております。
- ルーチン化が難しければ、市販の照射器を用いて、高照度光療法を行います。高照度光療法はメラトニンと併用される場合もあります。
- メラトニン以外の通常の睡眠導入薬が不眠には無効であることもまれではありません。
谷池雅子、加藤久美、毛利育子(2010).発達障害児における睡眠障害 五十嵐隆(総編)、 神山潤(専門編) 睡眠関連病態 中山書店 121-123
生活指導(精神療法)
☆具体的な生活指導例 |
・夕食後にカフェインを含む飲み物を避ける ・睡眠薬代わりの寝酒をしない ・就床直前に熱い風呂に入らない ・早起きをし、朝の光を浴びる ・習慣的入眠時刻の2~4時間前は最も眠りにくいことを伝える ・眠くなってから寝床につく ・適度の運動習慣を持つ |
☆入眠のためにすべきこと・すべきでないこと |
・眠くなってから寝床につくこと、眠くないのに寝床についてはいけない ・眠る以外の目的でベッドまたは寝床の上で過ごさない(読書をしない、 テレビを観ない、ものを食べない、いやなことがあったからという理由で 寝床に入らない、性生活に使用した場合にも眠くなかったら一度寝床から離れる) ・およそ20分以上入眠できず苦しいようなら、寝床を離れ、自分なりにリラックス できることを行い、眠気を感じたら再び寝床につく ・何時間眠れたかにかかわらず、平日も休日も必ず同じ時刻に起床し、 速やかに太陽光に当たる ・午前中は眠くなっても昼寝はしない、午後の早い時間の短時間の昼寝はよい |
内山真(2013)、「眠れません……」を解決する
不眠症診療&マネジメントマニュアル メディカ出版
くすりなしのリラックス方法
●ストレス度を判定しよう
配偶者との死別 | 100 |
離婚 | 73 |
別居(結婚生活の) | 65 |
刑務所への服役 | 63 |
親族との死別 | 63 |
障害または病気 | 53 |
結婚 | 50 |
仕事を首になる | 47 |
(結婚の)和解 | 45 |
家族の病気 | 44 |
妊娠 | 40 |
性的悩み | 39 |
子どもの出産 | 39 |
財政的問題 | 38 |
親友との死別 | 37 |
ホームズとレイが作成した「社会的再適応評定尺度」から抜粋。
体をラクにすることで心もラクになる
―筋弛緩法
●筋弛緩法のやり方
体の各部位を次のような順序で緊張と弛緩を繰り返します。どの部位も、10秒間力を入れたあと(緊張)、力を抜き、そのまま20秒間脱力状態(弛緩)を続けます。
- 両手 両腕を伸ばして膝の上に置き、10秒間固く握ったあと、手のひらを開いて20秒間脱力
- 上腕 ひじを曲げて握り拳を肩まで上げ、緊張→弛緩
- 背中 ひじを折って握り拳を肩まで上げ、肩胛骨を中心に緊張→弛緩
- 肩 力を入れて両肩を上げて緊張→力を抜いて肩を下げて弛緩
- 首 右に曲げて緊張→もどして弛緩。左も同様に
- 顔 口をすぼめ顔を中心に寄せて緊張→口をぽかんと開けて弛緩
- 腹部 手を当てて腹に力を入れて緊張→腹をゆるめて弛緩
- 足 つま先を伸ばして脚の表側の筋肉を緊張→弛緩。つま先を上に曲げて脚の裏側の筋肉を緊張→弛緩
- 全身 ①~⑧の全部位を同時に緊張→弛緩
自己暗示でリラックス
●自律訓練法
・練習のポイント
- 一つの公式は、20~30秒間行う。
- 一つの公式を練習したら、最後に必ず覚醒のため消去動作を行う。
- 3回を1セッションとし、朝昼晩と1セッションずつ行う。
- 一つの公式ができるようになったら次の公式を加えるという形で進める。
・消去動作
- 目を閉じたまま、両手で拳を握り、ひじを曲げて脇腹に引きつける。
- 両手を前に突き出しながら、手を開く。
- 深呼吸して、目を開ける。
・公式(カッコ内は唱える言葉)
- <背景公式>
- 「気持ちがとても落ち着いている」
練習の最初に4~5回唱える。 - <第1公式>
- 「手足が重い」
「右腕が重い」と繰り返し唱え、重く感じるようになったら、消去動作をしたあと、次のステップに進む。
右腕→右腕+左腕→両腕+右脚→両腕+両脚の順で対象を広げる。 - <第2公式>
- 「手足が温かい」
「右腕が温かい」と繰り返し唱え、温かく感じるようになったら、消去動作をしたあと、次のステップに進む。
右腕→右腕+左腕→両腕+右脚→両腕+両脚の順で対象を広げる。 - <第3公式>
- 「心臓が穏やかに規則正しく鼓動している」を繰り返し唱え、そう感じたら消去動作をする。
- <第4公式>
- 「自然に呼吸している」を繰り返し唱え、そう感じたら消去動作をする。
- <第5公式>
- 「おなかがとても温かい」を繰り返し唱え、そう感じたら消去動作をする。
- <第6公式>
- 「ひたいが涼しい」を繰り返し唱え、そう感じたら消去動作をする。
ぬるめのお湯にゆったりつかる
- 入浴は体内温度を下げ体を睡眠モードに移行させる
- 熱いお湯が好きな人は短めにし、寝床につくまで2時間あける
内山真(2010).名医が教える不眠症に打ち克つ本 アーク出版
治療方法
「睡眠薬はやめられない」などといった不安をお話しされる方々が、未だに根強く多勢おられますが、医師と相談の上であれば、「依存症」の心配はすこぶる少なく安全です。
したがって、一人ひとりの不眠のタイプの原因や程度などに応じて、テーラーメードの治療を実践することで、快適な睡眠と日常生活を送ることができると考えます。