社交不安障害

社交不安障害は、社会恐怖とも呼ばれ、日本では、対人恐怖症、赤面恐怖症といわれていたものです。人前で恥をかいたり、恥ずかしい思いをすることを極度に恐れ、そのような社会的状況に強い不安や苦しみを感じ、避けてしまいます。

人前に出ると緊張する、わけもなく不安・恐怖するなどの症状から、その程度が大きくなると社会生活にも支障をきたすようになります。

以前は「気の持ちよう」「性格の問題」とされることもありましたが、れっきとした障害です。現在では、10人に1-2人がかかるともいわれております。

「性格」と思っておられる方々を沢山おみかけしますが、この障害は薬物治療が、とても驚くほど良く効きます。90%以上の方々が回復するとされています。
また、さらに効果が高いとされる認知行動療法も随時あわせて行います。
どうぞお気軽にご相談ください。

 

社交不安障害とは

「人前であがってしまったと」というようなことはだれでも経験するものです。またシャイな人もどこにでもいます。しかし、社交不安障害では、人前で恥をかいたり、恥ずかしい思いをすることを怖れるあまり、そのような社会的状況をすべて避けてしまい、外出や通勤・通学もできなくなるなど、日常生活や職業的あるいは社会的な機能が著しく障害されます。 
 社交不安障害の患者さんでは、人前で話したり、食べたり、飲んだり、字を書いたりするような場面で、「手や声がふるえていることがわかってしまうのではないか」と心配で、このような状況を避けてしまいます。またこのような状況に患者さんが遭遇すると、恐怖のあまりパニック発作をおこす場合もあります。なお、すべての社会的状況を避けてしまう場合を「全般性の社交不安障害」、限定された2、3の社会的状況のみを回避する場合を「非全般型の社交不安障害」と、症状の程度で2つに分ける場合もあります。

よく発症する年代

小児期でもみられますが、10代半ばでの発症が多く、25歳以上での発症はまれといわれています。強いストレスを受けたり恥ずかしい思いをしたりした時に突然発症することもありますが、知らないうちに徐々に強くなっていく場合もあります。米国の調査では、生涯有病率は12%にのぼるとする報告と、20%の人で人前で話をすることに対して強い恐怖を覚えるものの、社交不安障害と診断されるほどのものは2%にすぎないとする報告があり、それぞれの調査方法が異なるために、結論は出ていません。社交不安障害は男性よりも女性にお多くみられるといわれていますが、実際に外来を受診するのは同数か男性のほうが多いという報告もあります。

症状

社交不安障害の特徴は、社会状況に対する予期不安とその状況からの回避行動という症状です。前者は、注目の的になることや収拾がつかないような恥ずかしい行為をしてしまうことに対する強い恐怖で、そのため後者=そのようなことがおこりそうな状況を避けてしまうのです。
 たとえば、社交不安障害の患者さんでは、人前で話したり、食べたり、飲んだり、字を書いたりするような場面で、「手や声がふるえていることがわかってしまうのではないか」と心配で、このような状況、つまりデートをすることやパーティに参加することなどを避けてしまいます。このような状況に患者さんが遭遇すると、恐怖のあまりパニック発作をおこす場合もあります。回避行動がひどくなると、学校にも行けなくなったり、仕事ができなくなったり、家からまったく出られなくなってしまい、さらには、うつ病を併発し、社会機能の低下が著しくなってしまいます。また、社交不安障害の患者さんには、回避的な性格をもつ方が多いとされています。

原因

社交不安障害の原因は、明確にはわかっていませんが、生物学的な体質や生育環境が発症に大きく影響するといわれています。まず、不安を惹起しやすい(いいかえると、脳の扁桃体の過活動状態が生じやすい)、あるいは社会的な状況下で戸惑い、何もできなくなるような生物学的な体質がある人に引き継がれます。そのような体質をもった人にストレスがかかると、人前でパニック発作様の発作をおこすことがあります。そしてこのことをきっかけとして、扁桃体が病的な過活動状態となり、同様の社会的状況下で不安が増強し、再び発作をおこすようになります。もちろん、実際に人前で何か重大なミスをしてしまった人もいます。そして、社交不安障害ではパニック障害と同様に、本来生命を維持するために重要な「脳内アラーム機構」が障害されているため、「社会的状況が命にかかわる重大な状況である」と前頭葉が間違った判断をしてしまい、同様の社会的状況を避けてしまうわけです。
 生物学的体質とは、脳の間脳という部位でのセロトニン、ドーパミンという神経伝達物質の機能に弱い部分があり、ストレスが生じた場合に、パニック障害と類似した扁桃体や前頭葉の機能障害がおきると考えられています。また、生育環境としては、幼児期の家庭環境が影響し、過保護や逆に過度のしつけ、無頓着で情緒的な支えに欠けている環境、批判的な環境、両親の不和、虐待などが社会不安障害の危険因子であるとの報告もなされています。

治療と経過

治療

社交不安障害の治療には、薬物療法と認知・行動療法が行われます。薬物療法はベンゾジアゼピン系抗不安薬が中心に行われてきましたが、最近ではSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)も効果があることがわかってきました。この薬物療法で不安を抑えつつ、認知・行動療法で不安状況に対する対処法を身につけていくという治療法が多く行われています。

経過

経過は持続性のこともありますが、薬物療法などの適切な治療によって、症状が軽くなることは期待できます。また、就職、結婚などの生活環境の変化で症状がまったくなくなることもあります。ストレスにより悪化することもあるので、日常生活面でのサポートが重要です。

家族や周囲の人の対処法

患者さん自身、この病気で悩んでいることが多く、「性格が弱いからだ」、「気のもちようだ」などの励ましは、本人をいっそう苦しめてしまいます。正しい病気の知識をもつことが大切ですので、専門医への受診が第一です。治療の遅れは病状を重症化させ、社会的機能を低下させるので、早期に医療機関を訪れ、適切な治療を受けることを勧めましょう。

予後の生活のアドバイス

  1. 早期発見、早期治療:治療が遅れると、病気が長引いたり、社会機能の低下が進みます。
  2. 治療は二人三脚で:治療は医師だけが、あるいは患者さんだけががんばってもうまくいきません。治療者―患者さん―家族の三者がそれぞれ必要な役割を果たすことで初めて治療が成立します。
  3. 生活を前向きに進めること:症状を治してから社会へ出ようとするのではなく、症状をもちつつも、薬などの助けを借りて、やるべきこと、やりたいことをこなしていくことが大切です。この小さな前進の積み重ねが症状から解放されていく確実な道です。

間違いやすい病気

人前を避ける症状は、パニック障害で広場恐怖がある場合や自分の行動などにさまざまな場面で不安が生じる全般性不安障害、気力が低下するうつ病などでもみられます。また、摂食障害でも人前での食事を避けることがあります。

塩入俊樹.社交不安障害 樋口輝彦・野村総一郎(編) こころの医学事典 日本評論社 pp.185-187.