さまざまな要因で生じます。
「引きこもり」などと簡単にレッテルをはらずに、さじを投げる前に、あるいは家人がご本人を焦らせることで、むしろ症状をこじらせる前に、一度ご相談下さい。

関心のある方は、

ひきこもり関連施策 平成25年5月厚生労働省」をダウンロードして下さい。

広義の「引きこもり」は約70万人、不登校は、約12万人以上と言われております。
これだけで病気や疾患ではありません。
引きこもりや不登校に至る経過は、その背景に影を落としている複雑な精神疾患を想定すれば、おどろく程多岐に及んでいます。

対応のポイント

  1. 先ず、焦らず感情的、指示的にならないようにしましょう。多くは、ご本人の行動について、一喜一憂するのは、徒労です。
  2. 「この休養、あるいは試行錯誤の時期こそが、将来を生き抜いていくために最も重要な力を育む期間なんだ」と余裕をもってご理解下さい。
  3. とりわけ、引きこもり、不登校なんかよりも「ご本人自身を心から愛している、かわりのいない大切な存在なんだ」というきめ細かい、親として当り前の感情を非言語的なものであっても繰り返し焦らずに強調して下さい。

ひきこもりと関係の深い精神障害とその特徴

ひきこもりの背景に存在する主な精神障害には以下のようなものがあります。

  1. 適応障害
    いじめなどの出来事を契機に不安や抑うつ気分が出現し、不登校・ひきこもりに至ることがあります。適応障害をもたらすストレス状況が遷延したり、あるいは誘因は解消しても症状が遷延したりすると、適応障害から気分障害や不安障害などへの展開が生じ、結果的にひきこもりが本格化・遷延化することは珍しくありません。
  2. 不安障害(社交不安障害、全般性不安障害、パニック障害など)
    社交不安障害は、人前で行動するなどの社会的活動に対する回避傾向が主症状の不安障害で、同年代やなじみの少ない対象を回避し、ひきこもりへと向かう可能性が少なくありません。全般性不安障害は様々な場での不安が特徴的ですが、特に失敗や挫折を恐れるあまりに緊張の強さが目立つ点に特徴があり、ときに不登校やひきこもりの原因となります。パニック障害の発作様の不安・恐怖状態が頻発するようになると、その出現を恐れて外出を控えるようになり、ひきこもり状態に至ることもあります。
  3. 気分障害
    その大半はうつ病性障害で、大うつ病エピソード、あるいはそれに準ずるうつ状態(気分変調性障害、月経前不快気分障害、小うつ病性障害など)の際にひきこもりを生じることがありますが、多くの場合に一旦ひきこもった当事者はうつ状態が改善したからといって、ただちにひきこもりから抜け出すことができるわけではないことを心得ておきましょう。うつ病性障害の中でも気分変調性障害はひきこもりとの親和性がより高い障害とされています。また、うつ状態から活動力の亢進する躁状態に転じる双極性障害であることが明らかになる事例もあります。
  4. 強迫性障害
    強迫症状が増悪してきた場合に、強迫症状に縛られて日常生活の習慣的行動をスムーズにこなせなくなったり、家族を巻き込んだ強迫症状に伴って退行が生じることで母親との共生的な結びつきから離れられなくなったりする結果、ひきこもり状態となることがあります。
  5. パーソナリティ障害
    不登校やひきこもりに表現されるような回避性、依存性、自己愛性、境界性(空虚感、孤立感、対象へのしがみつきと操作などが特徴)などの心性が年余にわたって持続する間に、そうした心性がパーソナリティに構造化されてパーソナリティ障害への展開が生じることがあります。もちろん不登校・ひきこもりが生じる前にパーソナリティ障害が確立していき、各パーソナリティ障害に固有なタイプの社会適応の困難さが深刻化し、社会的活動や関係性を回避するようになり、ひきこもりに至るという経過も多くみられることはいうまでもありません。
  6. 統合失調症
    統合失調症の陽性症状そのものである幻覚、妄想、自我障害などに基づく強い不安・恐怖から外出を控えたり、妄想に根ざした警戒心から家庭に閉じこもったりすることがあります。また陰性症状と呼ばれる意欲の低下に基づいて外出頻度が低下したり、人との交流を求めなくなったりするため、結果としてひきこもり状況に至る場合もあります。また統合失調症に基づく言動の影響で、周囲との人間関係が悪化し、周囲から距離を置かれるようになることに伴って外出困難になるという経過もあるでしょう。また、周囲の統合失調症に対する差別や偏見が強いため、あるいは家族が近所の目を気にしすぎるために、トラブルを避けるために外出させてもらえないという事例もあるかもしれません。また、当事者ではなく家族の中に統合失調症の人がいて、その人の妄想に基づく外界への警戒心から当事者の外出を禁じたり、その人の影響で当事者も同じ妄想を共有することになったりしたため、ひきこもりに至っている事例も存在することを支援にあたって心得ておきましょう。
  7. 対人恐怖的な妄想性障害
    (醜形恐怖、自己臭恐怖、自己視線恐怖)や選択制緘黙など児童思春期に特有な精神障害
    自らの容貌が醜いため、体臭が不快なため、あるいは視線がきついため他者を不快にさせているという思春期特有な確信を持つ妄想性障害の若者は、他者との接触を極端に避けるようになることがあります。また、選択制緘黙のような幼い頃から幼稚園や学校で口を閉ざしていた子どもが、やがて徐々に学校にいかなくなり家にひきこもる、あるいは高校卒業後は進路を決めないまま家庭にとどまるようになることがあります。
  8. 広汎性発達障害(Pervasive Developmental Disorders;以下PDD)
    広汎性発達障害、特にその高機能群(アスペルガー障害など)は思春期に入った小学校高学年から中学生にかけての年代で、同年代仲間集団から孤立したり、からかいやいじめの対象になったりすることが多く、そのことを契機にひきこもることがあります。いじめられた経験の頻回なフラッシュ・バックとそれに伴うパニック的な興奮、社会への関心の乏しさ、ゲームなどの活動への没頭の生じやすさなどは社会から孤立したPDDの若者がひきこもりに向かう協力な推進力となっていると思われます。
  9. 注意欠如・多動性障害
    (Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder;以下ADHD)
    本来人懐っこく、親しい人間関係を求める気持ちの強いのがADHDの子どもの特徴です。しかしADHDの主症状である不注意、多動性、衝動性のため、思春期年代に入る頃には仲間集団から孤立したり、学校生活で疎外されたりという状況に陥りやすくなります。こうした状況が長期化すると二次的に気分障害を併存したり、極端に反抗的になったりし、最終的には不登校・ひきこもりに至る可能性が高まります。
  10. 知的障害・学習障害など
    知的障害者(IQ70未満)が保護的で支持な環境や適切な能力に応じた活動の機会を提供されなかった場合、社会的活動の場を回避して家庭へのひきこもりを生じる可能性があります。障害ではありませんが境界知能(IQ70~84)の子どもや若者は社会的な評価や介入に非常に敏感で傷つきやすい面があり、不安な状況が続くと社会活動を回避しひきこもりに至る可能性の高いグループであることを心得ておきましょう。

とくに留意すべき精神障害

 ひきこもりとは状態像をさす用語であって、その背景がどのようなものかということまでは特定していません。ですから、ひきこもりととらえた段階で評価を停止するのではなく、その背景に存在し、当事者を苦しめるとともに、ひきこもり状態を遷延させている要因としての精神障害への関心を忘れない姿勢が支援者には求められるのです。特に、精神障害の中には適切な治療の開始が遅れることで当事者が大きな不利益をこうむることになる以下のような障害もあることを常に心得ておかねばなりません。

 その第一に挙げるべきは、気分障害の大うつ病性障害と双極性障害における大うつ病エピソードです。その第二に挙げるべきは統合失調症とその類縁疾患でしょう。そして第三の障害群は、ADHDやPDDを含む「発達障害」です。

 ぼんやりしたり、ふさぎこんで考え込んでいたり、好きなこともしなくなり生活全般に意欲が感じられず、生きている価値がないと感じたり、死にたいと訴えたりする場合は、気分障害のうつ状態かもしれません。子どもの場合は言葉で気分を表現できず、説明のできない苛立ちや不機嫌という形で現れる場合もあります。いずれにしても突発的な自殺に至る可能性があり、早期に休息や薬物療法などの介入が必要です。

 幻覚や妄想がある場合、特に特徴的な内容の幻聴や妄想がある場合は統合失調症の可能性を吟味すべきです。例えば「悪口をいわれている」「うわさされている」「自分の行動についていわれる」という訴えや、また独り言をぶつぶつといって誰かと話している様子などから幻聴があると思われるとき、また被害妄想を中心とした様々なタイプの妄想があるときです。他にも「自分の考えが読まれている/伝わってしまう」「あやつられている」などの訴え、脈絡なくとまらない言動があるときも注意が必要です。こうした体験はそのまま統合失調症を意味するわけではありません。他者の批判的な目や近所の人の噂話への過敏な被害妄想的解釈などは、統合失調症ではないひきこもり者の発言としてしばしば出会うものです。しかし、統合失調症であることが診断できたら、速やかに適切な薬物療法を開始すべきです。

 対人関係のもちにくさが著しく他者の意図や状況の理解が難しい場合、衝動性の高さや独特の風変りな思考やこだわりなどのために周囲から孤立している場合、からかいの対象になっている場合、あるいは学習に集中できないなどの困難が多く自信をなくしている場合は、知的障害も含めた何らかの発達障害の可能性を考慮する必要があります。診断が確定すれば各発達障害の特性に応じた環境の構造化や学習指導法、薬物療法、親に発達障害の特性を知ってもらい我が子の行動管理に役立つスキルを獲得してもらうためのペアレント・トレーニングなどを提供することができます。

厚生労働科学研究費補助金こころの健康科学研究事業
「思春期のひきこもりをもたらす精神科疾患の実態把握と精神医学的治療・援助システムの構築に関する研究(主任研究者 齊藤万比古)」 より抜粋

思春期に特有の心性

起立性調節障害(OD)

<症状>(3つ以上あてはまる場合)

思春期の5-10%、中学生に多い
自律神経系による起立時の循環制御機構が破綻
起立性低血圧などを起こす
全身臓器、脳への血流が低下
心理社会的ストレス 約8割
約半数に不登校を合併
不登校の約3-4割に、起立性調節障害を合併

起立性調節障害は心の問題をもちながらも、身体治療が不可欠であり、まさに心身症といえます。
起立性調節障害ガイドライン診断アルゴリズムでは、基礎疾患がある場合、脳波検査が必要な場合もあります。